2006年6月3日土曜日

改訂版「中論」の発売

(お知らせ)改訂版「中論」の発売について
大変長い間お待たせしてしまいましたが、「中論」の改訂版がようやく(株)金沢文庫から発売される運びとなりました。改訂版には新しく単語や文法の簡単な説明が加わり、解説も分かり易く大量になりましたので、ページ数も初版本の丁度倍位になりましたが、全体が大分分かり易くなつた面では、よかつたと考えております。
今回、改訂版の「中論」を読んでみますと、竜樹尊者の思想は徹底した実在論でありますが、従来西洋哲学においては観念論哲学と唯物論哲学とが競争のように発達し、実在論は唯物論と同一であるという理解が先行していたために、独立した実在論の論理構造が欧米の哲学にはなかつたと云う事情が、はつきりして来るように思います。しかし「中論」が正確な形で読まれ、竜樹尊者の説かれた実在論哲学の弁証法的な基本構造が、「中論」を読むことによつて根本的に理解された場合、単に日本だけではなく、欧米全体に実在論哲学の基本構造が理解され、人類が過去において長く続いた、観念論哲学と唯物論哲学との争いから、抜け出すことが出来ると考えております。
私はこれまで「中論」の日本語訳と平行して、「中論」の英訳と独訳を進めて参りましたが、その両訳も既に7、80%の進行状況でありますから、ここ1、2年の内に「中論」の英訳と独訳を出版することが可能であると見ております。そしてそのような形で欧米の人々が、「中論」の英・独訳を通じて、佛教的な実在論を理解するようになつた場合、世界全体が従来の観念論と唯物論との対立を捨て、輝かしい実在論の時代に突入して行くことを期待しております。
私は日本人の一人として、日本国民が先ず「中論」の真意を理解し、日本国民の共同作業で佛教的な実在論が欧米に紹介されて行くことを期待しておりますが、従来の歴史的な推移から見ますと、逆に欧米人が先に仏教的な実在論の真意を知り、欧米で理解された佛教的な実在論が、改めて日本に導入される可能性があり、その推移がどちらに落ち着くかという事情は、今後の歴史的な推移を見守ることが、必要であると考えております。
何れにしても、私は竜樹尊者その他の努力により、佛教的な実在論が明確な思想体系の形で、21世紀の今日まで残されたという事実は、非常に有り難い事であり、われわれ人類は近い将来、「中論」に残されている竜樹尊者の天才的な理解の仕方を通じて、本当の意味での実在論に関する基本的な哲学構造を理解し、これまで人類の文化に対して膨大な栄光と膨大な混乱とを与えて来た観念論と唯物論との間に横たわる絶対的な対立を疑問のない形で解決することが、出来るように思います。
このような意味から、私は今回の「中論」に関する改訂版の発行を、私自身のためにも、人類全体のためにも、大変有り難いこととして、心から喜んでおります。

竜樹尊者著・西嶋和夫訳

「中論」     定価:本体2800円(税別)

株式会社 金沢文庫 発行
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